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異彩ノ雫

第196章  四ノ月 Ⅱ ③




緑滴る中を
走り抜けた列車は
やがて
小さな無人の駅で息をついた

改札を抜けた眩しさは
たちまち不思議な既視感で
胸を満たす

潮の香りに包まれながら
歩く町
ここは老夫婦の営む本屋
あの角には
丸眼鏡のマスターがいる喫茶店…
細い路地に影が濃い

話してくれた通りの町並みだったと
君に告げよう
そして
ふたりで帰る夢を置いてきた、と

君は儚げに笑うだろうか…

遠く響く潮騒に
愛しい人がしきりに想われる







【帰郷】


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