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異彩ノ雫

第23章  intermezzo ネプチューンの祈り




その国は海に抱かれ
商都の繁栄をうたっていた

市民に混じり行き交う異国の人々
港からはエキゾチックな香りが漂い
穏やかな夕陽がひときわ美しい

けれど光に影が寄り添うように
広場に面した王宮の一室には
王のため息と苛立ちが満ちていた


━━ 昼過ぎに帰国を致し
その挨拶に参ったものだが…

周囲の制止を掻き分け
王の御前に膝を折るのは
長い黒髪をひとつに束ねた長身の海の男

落ち着かなげな王の足取りがひととき止まる

━━ よく帰った…!

表情もふと和らぎ 長の友へと歩み寄る

無事を喜ぶ抱擁の中
王の憂いは友へと映る


━━ 如何にした?

束の間息を飲みながら
妃が異国の船へ囚われたと
王は端正な顔を曇らせる


周囲から音が消えた


━━ …わかった、俺がゆこう!

事も無げに
立ち去ろうとする背中を引き留めれば
振り向くヘーゼルの瞳が想いを語る

━━ 案ずるな、海の上は俺の庭
必ず妃を連れて戻るゆえ!

王はしかし
なお引き留めながら
━━ 潮がかなうを待ち
私が軍を率いて乗り込む手筈…

━━ と、相手方も考えていることだろう
船長は言葉を続ける

━━ 今宵は大潮 月もない
これからすぐに行くとしよう







(つづく)


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