
異彩ノ雫
第30章 九ノ月 ⑤
書は流転する…
海の底から引き上げられた船の中
眠っていたその本は
やがて手から手へ…
黒い布張り
掠れて読み取れない金色の残る背表紙
ケシテ ヒライテハ ナラナイ
帯に記された細い文字が
封印したものは何なのか…
震える指先で禁を解く
蝶が舞うように開いたページには
美しい言葉で綴られた一編の詩
小さな書き込みに
ひとつの過去が浮かび上がる
詩集の持ち主は若き飛行兵
封じ込めたのは出撃の朝
想いを 祈りを断ち切るように…
流転の書は
今も
還るべき手を探しつづける
【流転】
