ただあなただけを見つめる
第12章 キス
―8月下旬
「はぁ…」
【ADAM】の店内に並ぶネックレスをいじりながらため息をつく。
相変わらずのヒマ日和。
何時間も見慣れた部屋をうろうろするのは何とも憂鬱なものか…。
痺れを切らした私は奥の部屋を覗いた。
「ちょっと旭さん、もう三日もお客さんの姿見てないです。」
「夏帆チャンは短気だねえ。」
「ははっ」と笑いながらミネラルウォーターを飲む。
旭さんは休憩中のようだ。
この人といったら…
私はまたため息をつく。
そしてついに疑問をぶつけた。
「旭さんは何でそんな呑気なの?この店儲かってる?」
「んー?まぁね。」
余裕な表情だ。
私がバイトを始めてもう一ヶ月になるが、接客をした経験がほんとに少ない。
つまりお客さんがあまり来ないのだ。
一週間来ないことも。
それなのにバイト雇うとか、
それもちゃんと働いた時間だけ給料くれるとか。
どこにそんな余裕があるの?
働かせてもらってこんなこと言うのもあれだが、とても余裕があるように見えない。