
大切な人へ
第31章 鈴木晄人
「まだあんたも好きなんだろ?じゃなんで別れた?」
『井川は藍野さんが好きなんでしょ?
じゃ別れた方がよかったんじゃないの?』
「あいつはまだお前が好きだからだよ!
お前も好きならそれが一番喜ぶだろ...まだ俺じゃない」
『俺じゃ彼女を幸せにはできないんだ。
今戻れば一時は幸せかもしれないけど
またいつかもっと傷つける。これは絶対なんだ』
「なんでそんなこと言いきれんの」
『俺たちは似すぎてるんだよ
一緒にいたら我慢し合ってお互い苦しくなる
好きだけど相性ってある。幸せになれない相性って』
『それに彼女は俺のために自分を犠牲にしすぎる
大事な髪だって俺を守るために黙って切ったんだ』
『あの長かった髪の意味...知ってる?』
「...知らない」
『亡くなったお父さんと離れて暮らすお母さんとの
思い出だったんだ...
亡くなる前日にお父さんが彼女に言ったんだって
美優の髪は綺麗だね
伸ばしたらもっと可愛くなると思うな
お母さんみたいに綺麗になるよ
短かった髪を伸ばしだしたのはそれからなんだって』
「...それあいつから聞いたの?」
『…いや。彼女のお母さんから聞いた
髪も長くて藍野さんに似ていて綺麗な人だった』
『それなのに気にしないでって笑うんだよ...藍野さん
俺とのことがもしばれたら転校や退学だってするって
言ったこともあった。本気だと思う。
もう彼女の大切な物...奪いたくないんだよ
俺じゃ守るどころか苦しめるだけなんだ...』
『そばにいてあげて?
彼女は井川のこと好きになるよ。今も多分...』
「じゃ遠慮なくもらう。絶対にまた笑わせる
あとから返せって言われても無理だから」
