
大切な人へ
第33章 彼の夏
『井川くん お疲れさま』
練習が終わったのは7時頃だった
歩いて校門に向かう彼に声をかけると
すごくびっくりされた
「こんな時間まで1人で見てたのか?
…危ないからもっと早く帰れよ」
少し困った顔で頭をぽんってしてくれる
言ったら終わってからそっち行ったのにって
前なら危ないだろって怒鳴ったと思う
『練習見たかったの 頑張ってるところ』
また優しく笑ってくれる
『今どんな気持ち?』
次勝てば甲子園だね
「…なんかすごい落ち着いてる
去年は空気悪くなるくらいピりついてたのに」
『…そっか』
少し話そうかって近くの椅子に座った
『次の試合は応援に行ける
他に私に出来ること…あるかな?』
「…じゃ1つお願いしてもいい?」
試合当日__
青天に恵まれて朝から暑い
今日も私は1人で来て彼のキャップを被ってる
ただ今日は選手が集まる前から会場にいる
彼を待っていた 彼のお願いを叶えるために
前みたいに送り出してほしい
『見てるから 力出しきってきてね』
「ありがとう…行ってくる」
彼の首に大きく腕を回してぎゅってした
彼も少し強くぎゅってしてくれて
また軽くキスをして
通用口にむかっていった
