
大切な人へ
第33章 彼の夏
部屋に入ってきた彼はベットの縁に座った
私は首にかかったタオルで
彼の短い髪を拭いてあげた
『頑張ったね かっこよかったよ井川くん』
座って俯く彼を頭にタオルをかけたまま抱きしめた
『誰もいないから…泣いてもいいよ』
「...美優がいるじゃん」
『こうしてたら見えないよ
たまには私にも甘えて...彼女だよ?』
ぎゅっと強く抱きしめて頭をポンポンってした
泣けなかったら泣かなくてもいいよ
抱きしめたかったら抱きしめてくれたらいい
こんな時って何て言ってほしかったかな...
そうだ...私はね?こんな時は
苦しいくらい抱きしめてくれてこう言ってもらうと
嬉しかったんだ...お父さんに
(美優はよく頑張ったよ お父さんちゃんと見てたから)
『井川くんはよく頑張ったよ 私ちゃんと見てたから』
彼はその後ずっと何も言わなかった
でも私を軽く抱きしめてくれてた
「アイスコーヒー飲みたい」
少し顔を浮かせて小声で言った
買ってこようか?って言ったら下にあるって
立ち上がり私の頭をぽんって撫でた
「ありがとう」
横を向いてタオルで声が少しこもってた
今日は見ないよ...
男の子は泣いてる顔なんて見られたくないよね
