
大切な人へ
第35章 井川くんと翔ちゃん
小学生の私は本当に勉強しなかった
両親もあまり何も言わなくて気にしてもなかった
毎日吹奏楽の練習と音楽の授業を楽しみに学校に行って
帰るとピアノを弾くか翔ちゃんと遊ぶ日々だった
その頃よくここにも来ていたから
おばさん達はそのイメージしかないよね
「...お母さんとは連絡とってる?」
......。
『何も連絡がないってことは元気な証拠ですよね
翔ちゃんも前に会ったって言ってたね?』
井川くんの前でこの話はしたくなかったな...
「じゃやっぱりご実家には帰ってないの?
去年私も会ってそう聞いたわ...一度も帰らないって」
『もうあの家は母と隆之さんの家です
私がいない方が幸せです。きっと...』
私の言葉に私たちしかいないお店が静かになる
「美優はもう俺の家の家族みたいなもんだよ
うちにはお前の椅子も食器も箸も...全部あるだろ?」
「そう思わないか?みんなお前の事好きすぎ」
井川くん...
いきなり泣き出した私に
おじさんがバスタオルを持って来てくれて
ちょっと笑ってしまった
