
飴と鞭と甘いワナ
第1章 scene Ⅰ
N side
お客さんの髪を切っていて、何気なく見た窓の外
視界に入ってきたのは
はっきり言って小汚いとしか言い様のない、ソイツだった。
やけにこっちを見てるから、シカトするのもなぁ…なんて思って
軽く微笑んで会釈して見たら
…すっげぇ慌ててんの。
かと思ったら、勢い良く走ってきた高校生の自転車が跳ね上げた水溜まりのそれが
ソイツの顔面を見事にヒットして。
漫画みたいな出来事に、思わず手が止まった。
何とも言えない顔で、立ち竦むソイツ。
周りも足を止めて、ソイツを遠巻きに見ている。
だけど、泥水に濡れて貼り付いた髪をかきあげて
しっかりとその顔を見た途端
…一瞬で持ってかれた。
なかなかイイ顔してんじゃん。
あのウザい髪と服を何とかしたら、結構イケんじゃね?
試したい。
自分の腕を。
所謂「改造計画」ってやつ?
女の子なら色々面倒だけど、男ならそこは大丈夫だろうし。
そう考え始めたらウズウズしちゃって
お客さんに「どうしたの?」って言われるまで、手が止まったままだった。
逃げるように走り去ったソイツ。
また、会えるかな…
