
飴と鞭と甘いワナ
第6章 HurryUp! episode 1
車置いて。
レイトショーに出戻ったはいいけど。
見たかった新作は早々に飽きがきた。
面白くない。
その面白味が半減してる要因を俺自身とっくに感づいてる。
傍に喜怒哀楽の激しいアイツが居ないから。
五月蝿いよって声を潜めてツッコんだり、ベッドシーンで指を絡めたりするコトもない。
物足りなくて。
目深にキャップを被り直して早々に席を立った。
足早にロビーを抜け、下りエスカレーターで爪先をジッと見つめる。
ン?
鼻先を掠めた香りにふと顔を上げれば
「!!」
すれ違う上りエスカレーターに見慣れたオトコの顔。
駆け昇ってく足音。
ヤバい…追いつかれる。
アイツのコンパスの長さは重々承知。
こんな距離 アッと云う間に詰む。
"何で此処が分かった?普段は鈍なクセに"
勘の良さに思わず舌打ちしそうになる。
緊急事態発生につき致し方ない…卑怯技発動。
女子数人にワザとぶつかって顔バレする。
"ゴメンね"
小さくウィンクすれば
"えっ?今の…"
"ニノ?…だよね?"
プチパニック起こして障壁完成。
後は野となれ山となれ…だ。
