
飴と鞭と甘いワナ
第6章 HurryUp! episode 1
「もうコッチ向かってンで…」
"…アイバ"
独り言みたいなトーンで暴露ってくれたのは競馬新聞から片時も目を離さないこの店のオーナー。
スタッフのヒナ…とやらが
"ええっ!?"
目をひん剥いた。
「アカンやろ、それ言うたら…」
小声で目配せしても
「アンフェアなんは嫌いや」
小気味良くバッサリ。
「それにコノ人にしたら…此処はアウェーやろ」
「せやけど…」
口ごもるスタッフくんの歯切れの悪さに業を煮やしたか
「もうええ、オマエ…タバコ買ってこい」
オーナーが万札をカウンターに放って言った馴染みのない銘柄は多分自販機にはないヤツ。
「早よ行けや」
シッシッと手で払いながら
「スマホ、そのままな」
雑誌の膨らみを指差す。
渋々スタッフくんはポケットに万札を突っ込み
「行ってくるわ」
膨れっ面が出ていったと同時にオーナーが新聞から顔を上げた。
「どーしたいん?」
そう言われても…コトの次第を話すべきか、否か。
「ま、ええわ、時間無いし…」
"ちょっと来い"
クイクイと指が招くからその後ろ姿について行った。
