
飴と鞭と甘いワナ
第6章 HurryUp! episode 1
屈まなきゃ入れそうにないそのドアの中へグイと押し込まれる。
「ちょっと待ってて」
そう言って店の方へ戻ってく小さな背中。
入った三畳ほどの手狭な部屋は簡易ベッドとテーブル代わりの木箱が一つ。
「ほとぼり冷めるまで…」
後ろからの声に振り向けば いつの間に来たのか湯気の立つカップを手に
「…居ったら?」
オーナー氏の不意の申し出に面食らう。
え?俺を匿うってコト?
余程間抜け面してたのか鼻先を可笑しげにフフンと鳴らし
「そろそろアイツ来そうやし…」
咥えタバコで
"…相手してくるわ"
オーナーは静かにホンの少し微笑った。
「…スイマセン」
ただの痴話喧嘩なのに他人巻き込んで。
いい大人がみっともない。
「せや…」
カップを指差し
「グリューワイン…温もるから…」
ホットワインらしい。
"…早よ飲み"
パタンとドアが閉じ足音が遠くなった。
短い一言一言が身に沁みて泣けてくる。
あぁもう何やってンだ、俺。
