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飴と鞭と甘いワナ

第9章 1匙め



朝から彼女と交わした会話が朝の挨拶もなく名前だけなんて

「……終わってンな」

髪をガシガシ掻き上げ、タバコを吸い殻の山に押し付けた。

デカい枕にボスンと背中を預ける。

出勤するまであと小一時間はある。

薄いレースのカーテンの向こうが明るくなってきた。

視界の真ん中に右手を翳してみる。

彼女から押し付けられた薬指の細っそいリング。

俺の骨張った指にはイマイチそぐわない。

そう云やショーコさんの右手に嵌めてあったっけか?

そう言えば

"診察に邪魔だから"

邪魔って…コトは外してるのか。

俺には"肌身離さず…"とかって強引に押し付けて。

独善的な言い種に笑う気すら起こらない。

「もうそろそろ…この関係も潮時かな?」

恋愛ドラマの廃れた台詞を呟いて。

二度寝の微睡みにうつらうつらしそうな俺を阻止するみたいにサイドテーブルのスマホがそろそろ時間だとブルブル震えた。

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