
飴と鞭と甘いワナ
第9章 1匙め
手早く顔を洗って。
コーヒーは…最近のは良く出来てるからインスタントので十分。
彼女とお揃いのマグカップは3日前にクラッシュしたから今は何かの粗品で貰ったヤツ。
あんま悠長に飲んでる間がない。
「マジで精算時かなぁ」
真新しいカップを繁々眺めながらの独り言。
鳩尾がシクと痛むのは恐らく起き抜けの彼女の膝がくれた一撃のせい。
昨夜しつこくセックスを強請ってきたのはキョーコさんからなのにな。
そう云うトコをあっさりリセットしちゃってくれンだから始末に負えない。
ホント ご都合主義に生きてらっしゃる。
グイと最後の一口を煽ると白い底が見えて。
その白さが何かの啓示に思えた。
薬指のリングを外して戸棚の引き出しの手前に仕舞った。
いつ気付くか…賭けだ。
「……いってきます」
誰も居ないリビング。
バイクのキーを手にブルゾンを羽織って。
草臥れたスニーカーを突っかけた。
