
飴と鞭と甘いワナ
第9章 1匙め
バイクのアイドリングしながらツラツラ考える。
彼女は今をときめくタレント開業医。
それに比べて俺はしがない産業医。
自ずと生じる時間のすれ違いとか。
義務化してるデートとか。
見え隠れするパトロンの存在とか。
産業医を卑下するワケではないケド。
「一国一城の女主とパンピーじゃなぁ…」
ヘルメットを被ってアクセルを吹かす。
勤務先まで約20分、見慣れた風景の中を走る。
最近何処となく希薄さを感じる二人の間の空気。
薄い空気は"息苦しく"て。
それはつまり"生き苦しい"に通じるものでもあって。
そう云えば
「何かやりたい事ないの?…」
"…習い事とかさ"
溜め息混じりに言われたっけ。
あれって遠回しに"一人での過ごし方考えろ"ってか?
彼女の方がとっくに息苦しさを感じてたのかもな。
通用門の守衛に会釈して駐輪場にバイクを停める。
手を突っ込んだポケットにさっきのチラシが入ったまま。
「"習い事"かぁ」
もう既に俺の頭の中には一人でコンビニ弁当を侘しく食ってる未来しか見えない。
だったら…オトコの料理教室…"あり"かも。
