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飴と鞭と甘いワナ

第9章 1匙め


色々考える事がありすぎて、気付くと “無“ の状態になる時間が増えた

「さっきから呼んでるのに」
彼女が頬を膨らまして、いつの間にか俺の隣に座っている

「あ…ああ、ごめん」
曖昧に笑ってごまかしてやり過ごしたけど

「これ、どっちがいいと思う?」
いきなり広げられたドレスの写真に、思わず溜め息が出た

結婚が決まってからの彼女は
現実の事よりも完全に意識が “結婚式“ 一色で

ああでもないこうでもないと
次々に夢をぶつけてくる

そりゃ、女の子が結婚式に憧れるのは分かる
…だけど現実を見てくれないと困るのも事実で

その願いを叶えるには俺の年収が軽く吹っ飛ぶのも分かって欲しい


「そのドレス、幾らするの?」
「もう!一生に一度なんだからお金の事は言わないでよ」

ー…その台詞、バイトしかしてないお前が言うなよ

「だってその後の生活があるだろ」
「本当和くんはお金ばっかり」

当たり前じゃないか
子どもじゃないんだから、少しは現実を考えてくれよ

「お前の暴走を止めなきゃ、洒落にならないもん」

これ以上言って喧嘩になると面倒だから
宥めるように、頭を撫でて話を止めた

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