
飴と鞭と甘いワナ
第10章 2匙め
「ちょっと味見させて」
大野さんが、お玉から少しすくって自分の小皿に移す
口に運んでから、ちょっと間を置いて
「…ンめぇーっ!やっぱ俺のレシピ天才!」
たまんない、っ顔して満面の笑みを浮かべるから
思わず相葉さんと目を合わせ、お互いに吹き出してしまった
「あ?なんだよ」
打って変わって、拗ねた顔をする大野さん
「いえ」
まだ笑いを含んだままごまかしたら
「こんなん食わせたら、恋人はイチコロだぞっ」
ニカッと笑って親指立てて
大野さんは“よし“ と次のテーブルへ移動した
“恋人はイチコロ“
その言葉に引っ掛かりを覚えて思わず眉間に皺が寄る
“娘に働けなんか言わないで“
昼間の電話の声が甦った
ー…だったら俺がここにいる必要はないはずだろ
何気なく相葉さんの顔を見たら
何故か相葉さんも険しい顔をしていて
もしかしたら俺達は似た者同士なのかもしれない
確信はないけど、そんな気がした
