
飴と鞭と甘いワナ
第10章 2匙め
何て言ったか も一回聞き返したくて。
でもさっさと立ち上がって駅に向かう猫背は思ったより早い。
「ちょっ…待っ……!!」
チラと俺を窺う二宮さんの向こうから勢いのついた自転車が一台。
「にのみっ…!!」
思いきり手を伸ばして 腕を掴んで…胸に引き込んだ。
「…セーフ」
フィーと息を吐いた途端、抱えた身体の小ささに吃驚して
「わわっ…ゴメン」
「また…謝ってばっか」
ポンと胸を押されて
「今度は違う言葉 聞かせてよね…」
“…ありがとう また来週“
人差し指と中指をピッと立てて小さく敬礼すると身を翻して改札に駆け込む後ろ姿。
緑色のペンギン印カードが遠目に見えた。
*
そんなこんなで次の講習ン時はまだ微妙に距離感はあったものの幾分か堅苦しさは薄れたかも。
それが証拠に ほら今日は “此処だ“ って手を振ってくれてる。
「ギリギリでしたね?」
隣に座れば
「仕事忙しいんですか?」
お、リサーチ?
軽く繰り出したジャブ…そんなさりげなさが嫌味じゃないから
「…ヨロシク」
名刺を一枚手渡した。
