
飴と鞭と甘いワナ
第10章 2匙め
N side
“よろしく“ と無造作に渡された名刺
ちらりと文字を目で追って
「マジか!」
思わず声に出してしまった
「え、何が?」
相葉さんが不思議そうに俺を見る
ついでに言えば、教室の他の人達も声に驚いてこちらを見ていた
慌てて声を小さくして、身を屈めながら
「相葉さん…医者なの?」
…とてもそうは見えない、とは言わないでおいた
「ああ、医者ってもちょっと違う
…学校の保健室の先生のちょっとバージョンアップした感じ」
なんて軽く言うけど
企業向けなんだから、学校とは違う事くらいは俺にだって分かる
「相葉さんって頭良かったんだ…」
「なんか、それ地味にショックなんだけど」
その少し拗ねた顔が、それまでのクールから一転してて
親しみやすさを感じた
「だって何かイメージが…」
「わーるかったな」
回を追う事に多少残ってはいるものの敬語はなくなった
こないだの、魚介料理ん時から
俺と相葉さんの距離は縮まってる気がした
たくさん話す訳ではないけど
相葉さんと一緒に作業をする時間が楽しくなっていた
