
飴と鞭と甘いワナ
第10章 2匙め
スマホに照らされた彼の口唇が
"ラッキー"
そんな風に動いて見えたのは俺のご都合主義な目の錯覚か?
「…"何かあった"ら却って電話出来ないンじゃない?…」
"…状況的にさ"
洗い物の続きをしながらチラと横目でこっちを窺って 小憎らしい屁理屈捏ねるし。
「じゃ"何も無かった"ら電話して?」
対抗すれば
「"何も無い"なら電話する意味なくない?」
思わぬ意趣返し。
ぶうたれる俺に
「仕返しです…」
"…言われっ放しは癪に障るンで"
クスクス笑って上目るなんて卑怯技。
あぁ もうそんなキュートな顔 見せんなって。
俺、帰れないじゃん…てか帰りたくない。
そんな俺の心のウチなんか" 我関せず "なんだろうな、彼にとっては。
あくまで平静装って、淡々と器具を片付けて
「………じゃ また来週」
後ろ髪引かれたまンまの気持ちは隠して、諦めの悪さを思い切るように背中を向けた。
彼がどんな顔してたのかなんて…俺は知らない。
