
飴と鞭と甘いワナ
第10章 2匙め
急ぐのは部屋で俺の帰りを待ってる彼女の為…と云えば聞こえは良いンだろうな。
とかく自分主体なヤツだから、ウチの彼女は。
少しでも待たせると変な勘繰りし出して、クソ面倒い展開になるから早足になる、ただそれだけ。
「…ただいま」
エレベーターの中で息は整えた。
シレッと何食わぬ顔してリビングに入れば彼女は電話中。
一瞬で媚びた物言いをビジネス的な感じに言い換えるのが狡(こす)い。
どうせ歳上のパトロンなんだろ、相手は。
俺は上衣を脱ぐと、これ見よがし、聞こえよがしにビールのプルタブを勢いよく引いた。
目の端に見えた不愉快そうな視線は敢えて無視。
5分…10分…15分…長っ
ビールをグビグビ煽りながら上がってきた派手なゲップに溜め息一つ混ぜて。
「……お待たせ」
平然と俺の隣に座れる彼女に苛立ちしか感じなかった。
呼び立てたのはそっちからだろう?
待たせた挙げ句に謝りもナシかよ。
俺の飲みさしの缶ビールを勝手に呑むのすら腹立たしい。
手に返されたビールはもう口をつける気さえ起こらなかった。
