
飴と鞭と甘いワナ
第10章 2匙め
ー…帰ろ
ようやく冷静さを取り戻して、大通りに向かおうと踵を返した瞬間、ガツッと植え込みの段差に引っ掛かった
「あ…っ!」
転ばないように体勢を整える時に
…開いたままのスマホの画面の通話ボタンに触れてしまった
ヤバい!と画面を見れば“呼び出し中“ の表示
慌てて切ろうとタップする前に
『もしもーし』
スピーカーから、相葉さんの声が聞こえてきてしまった
繋がっちゃったよ
どうしよう!?
テンパりすぎて何も答えられない俺に
相葉さんが『…どしたの?』って優しく言ってくれて
だけど俺は何も言う事が出来なくて
…かろうじて
「…相葉さん」
名前だけを、口に出来た
その時、ちょうど後ろの大通りでバイクの爆音が聞こえてきて
話したくても煩くて聞こえにくいかも…と躊躇してたら
『今、何処にいる?』
なんて相葉さんの一言
そんな事、聞かれるとは思ってなかった
「……」
まさかマンションの下にいるとは言えない
でも、何だか相葉さんは気付いてるっぽいし
…どうしよう
何て言ってごまかそうか
『そこにいて』
“今行くから“
ああ、やっぱり相葉さん分かっちゃった
