
飴と鞭と甘いワナ
第10章 2匙め
多分、さっきのバイクのせいだ
あの音が、きっとマンションにも響いたんだろう
スマホと外の音がリンクしてしまったんだ
それでなきゃ、幾らなんでも分かる筈ないんだから
“待ってて“ と言われて逃げる訳にも行かず
相葉さんに何て言ってこの場を凌ごうか、脳みそをフル回転させてみるけど
もう、頭の中は真っ白で何も浮かんでは来ない
情けなさすぎて泣きたくなってきた
マジで俺、何やってんの
「ー…二宮さん!」
俯いてた顔を上げれば
エントランスから走ってくる、長身のその人
真っ直ぐに俺に向かってきて
目の前で止まって、息を整えて
「びっくりした」
……ふわりと笑った
“何でうちを知ってんだよ“
とか
“今日は断っただろ“
とか
“気持ち悪いんだけど“
とか
どうして何一つ責める事もしないで笑えるの?
俺は自分の苛立ちを抑え切れなくて
断られたのを無視して、相葉さんを愚痴吐きに利用しようとしたのに
勝手に住所まで聞いてしまったのに
何で何も聞かないの?
