
飴と鞭と甘いワナ
第3章 scene Ⅲ
"ゴチになりました"
ニノの声にハッとして顔を上げたら手で軽く払った暖簾を潜ってる後ろ姿。
アッと思ったら自動ドアがスーッと音もなく閉まった。
年季の入ったテーブルには半分以上も残ったまんまの鴨南蛮と裏返しの伝票。
向かいの席の丼は綺麗に空になってるケド。
慌てて掻き込む気も、食欲もすっかり萎え萎え。
出汁に浮かぶネギの間に映ってる自分があんまりにも情けない面をしてるから、思わず手で頬っぺた叩いて喝を入れた。
誘われたのは一昨日。
あのコトがあってから
優に一週間は経ってて。
"昼飯食わない?"
って暢気なメッセージ。
ドキドキの心臓と火照る顔。
テンパってンのは俺だけだろうな…なんて一人で盛り上がったり下がったりしながら近くの馴染みの蕎麦屋で待つこと5分。
入り口近くの二人席。
"お待たせ"
なんて真向かいに座られンのが何となく気恥ずかしい。
相変わらずセンス好いニノ。
俺は小汚ない仕事着の袖を捲って…ってなんで直ぐ比べちゃうンだろ、いつもの悪いクセ。
