
飴と鞭と甘いワナ
第1章 scene Ⅰ
はっきり言って、美容師としてそこまでがっつりやるつもりはなかった。
けど、幸運がやたらと重なって
ついにはトップスタイリスト、なんて言われたら
…そりゃあ俺だってやる気になるし
もっと勉強して、技術を更に身に付けたくなるでしょ?
それにはやっぱりモデルが必要で
練習用のウィッグも良いけど、やっぱり生身の髪で試したい
それに、俺のモットーとして
指名のお客さんは、シャンプーからアシスタント任せはしないって決めてるから
洗う時は相手の反応が不可欠。
だからね
ヤツ…雅紀は俺の練習台には持ってこいな存在。
あいつはタダでシャンプーもカットもして貰えて
俺は練習が生身の髪で出来て
お互いイーブンな関係になっている…はず。
「二宮くーん、俺帰るから後よろしくねー」
オーナーが、俺に鍵を投げて寄越した。
「あ…オーナー!今日、モデル入れるけどいい?」
「構わないよー。んじゃあね、お疲れ様」
ダメなんて言われないのは分かってるけど
…やっぱり断りは入れとかないと。
そう言うとこはさ、きちんとしなきゃね
