
飴と鞭と甘いワナ
第3章 scene Ⅲ
S「エラい深刻な顔してるやンか」
隣を歩く信ちゃんが顔を覗き込んでくるから、半歩車道側へ身体を寄せる。
したら
"照れんなや"
なんて肩を組んでくるのが暑苦しい。
ぶら下げてるビニール袋から透けて見える『冷やし中華』の文字。
二人の晩飯かなとぼんやり思ってたら
S「…でどないしたん?」
さりげなくそう聞かれて。
俺は道すがら事の次第を信ちゃんに話した。
"ちょっと待ってや"
俺の入り組んだ話を整理するみたいに10歩歩いちゃ空見たり、10歩進んじゃ足元見たり。
ようやく店に上がる階段の下で
S「何とのう分かった」
信ちゃんはニカッと白い歯を見せた。
*
"スバルにはこっちから話す"
それって俺は黙ってろってコトだよね?
当事者なのに?
S「ややこしなりたないンやったら…」
"お口 チャックな"
のジェスチャーにコクコク頷く。
確かにスバルくん、難しいトコあるし。
S「戻ったで」
重いドアの向こう、奥の方から
"ン"
て短く聞こえた。
