針の山
第1章 針の山
私が初めて家政婦として勤めた
お家でのお話です。
そのお家は、江戸時代から続く
地方の名家でした。
大きなお邸の割には、奉公人は
年老いた家政婦が一人と、主に
代わって邸を守る、番頭さんが一人
だけ。
若い働き手を雇っても、奥様や
お嬢様の我儘に付き合い切れずに
皆、直ぐに辞めてしまうのだと
言うことでした。
それを聞いて、私は一抹の不安を
抱えましたが、父の仕事の取引先と
いう縁で紹介されたこともあり、
直ぐに辞めるわけにはいきません。
私は、何があっても
『取り敢えず半年間は勤めよう』
そう心に決めて奉公する事に
致しました。
ですが、私は半年を待たずに
暇を出される事になりました。
何故なら……
ひと月を待たずに
ご主人のご一家は皆、
亡くなってしまわれたからです。