パパ、もう一度抱きしめて
第5章 ママのいない夜
理沙子、ごめん。
オレはもう少しで過ちを犯すところだったよ…。
梓が諦めて寝付くまで、オレはこの体勢のままじっとしていた。
そして気を紛らわすため、梓のまだ小さかった頃を思い出す。
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あれは確か二才だったか。梓が高熱を出した日、たまたま休日で家にいたオレが、理沙子に代わって病院へ連れて行く事になったのだ。
病院でインフルエンザの検査を受け、大泣きした梓をオレはあやしながらベッドに寝かせた。
「ふぇっ…ふぇっ…え〜んっ」
オレは梓の小さな頭を撫でた。
「もう痛いことしないからな」
「パパ〜、もうおうちに帰りたい」
「うん、帰ろうな」
「ふぇ〜ん、いたいの、やだ」
「もうしないよ。よくがんばったな。えらかったぞ」
「パパ…のどかわいた」
「車の中に水筒があるから、後で飲もうな」
「…うん…グスッ」
「よしよし。えらかったな梓」
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やがて、「スースー」と規則正しい寝息が背中で聞こえた。
オレはそっと梓の腕を外し、身体を離した。
あどけない寝顔だった。
「ふっ…」
オレは、あの日の面影を残し美しく成長した娘を、穏やかに見つめ続けた。