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迷霧

第4章 4

「それはあれや、本物見たからにきまっとるやろ」

「えっ……」

「二年前にな、うちの妹が……」


 そう言いかけて朱里さんは横目でマネキンを睨み付けた。殺気の籠った冷たい瞳に一瞬ゾクッとする。


「まあ……マネキンとはいえ、このままぶら下げておくのも気分が悪いのでおろしておきましょう」


 マネキンのそばに立っていた昭さんが気を遣ってか、「何かロープを切るものを探してきます」と部屋から出て行った。


「じゃあオレも……」


 ちらっと朱里さんの顔を見ると、朱里さんは怪訝な表情をしていた。


 妹さんが自殺……?
 そんな暗い過去があったなんて、明るい朱里さんからは考えられなかった。
 さっきまでケラケラ笑ってたのに……。
 とにかくマネキンをおろしたら早くここから出よう。この変な空気にも耐えられない。


 すると、廊下の奥から昭さんが梯子を担いで持ってきた。昭さんは手際よく折り畳み梯子に登ると、サバイバルナイフでロープを切った。


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