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BOXルーム

第5章 時間を戻してからの、話

 ももっちは部屋にある電話に目を向けた。


「そうだ……警察に……」


 そう言って電話に近寄り受話器を取るが、番号を押しても、まったく反応しない。


「やだ……音はしてるけど、ボタンが故障してる……」


 ももっちは電話の前で、大きくため息をつく。


「……ももっちさん、ですよね?」と、女性は声をかける。


「え? 私のこと知ってるの?」


 ももっちは驚く。女優として20年近くキャリアはあるが、大きな出演はしたことがなく、脇役やチョイ役がほとんどで、テレビにもあまり出ない。舞台での活躍が多く、名前を呼ばれたのは初めてだった。


「知っておられる方がいて嬉しいです。本名は桃地晴海って言うんですけど、愛称がそのまま芸名になって……事務所がそれで売り出そうって、なかなか目が出ないんで……」


「この前、舞台で『かぐや姫と7人の変態』を見に行って、かぐや姫の友人役で出ていたのを覚えてます」


 彼女の名前は馬野真綾(まのまあや)36歳。エステサロンの店長をしている。


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