お姫様は海に恋い焦がれる
第2章 海に浮かんだ月に焦がれる
「一国のお姫様のものになる。思っていたより途方もないわ。これでは、永遠に戦い続ける方がきっとまだ楽」
「やめておけって言ってるじゃん。本当に世界が……銀水晶までやばくなったら、どうするわけ」
「はるかなら、どうする?」
みちるはアイスティーを傾ける。軽らかな渋味を含んだ涼は、心身を流動していた薄い靄を、爽やかに洗い払ってくれるようだ。
「僕なら、……」
氷に馴染んだフレーバーを喉に流す。はるかの腕に力がこもった。
「お団子が背負えなくなったら引き受けるし、彼女だけを苦しませはしない。……世界なんて、正直、どうでも良いな。あの子がいてくれるなら」
「──……」
「何に代えても守るよ。もし、……万が一にも寂しがらせるようなことになったら、その時は……追いかけてくるな、なんて、酷なことは言わない」
「…………」
そうか、アドバイスではない。本心だ。
みちるは胸が迫る痛みに耐えながら、息を吸う。はるかの腕に、そっと指先を添えた。
「私も、同じ」
「──……」
「そして貴女に対しても、きっと同じことをする」
「っ、……。みちる……」
はるかから、はっとした気配が伝ってきた。それから優しく笑ってくれた彼女の顔が、目蓋の裏をふっと掠める。
今宵はどこを探しても、二つ目の月は見付かりそうにない。
〈完〉