お姫様は海に恋い焦がれる
第3章 うさぎピンチ!二人きりの夜〜未来編〜
うさぎを衛から奪い上げるつもりはない。ただ、この不条理の蔓延る世界の片隅で、あの人を強く強く抱き締めていたい。
配偶者のいる人を、愛してはいけない。
昔、祖母がみちるに言ったことだ。
そうしたことはありえない。ありえないことだったから、子供心で頷いた。
絶対というものこそ不確かだと知らなかった。永遠に変わらないものなど存在しない。
「私は、あの子を衛さんから引き離したいのではないの」
「…………」
「ただ側にいたいの。泣かせたくないの。この気持ちと、衛さんがあの子の本心に気づいていながら側に置いておくのと……どちらが正しいことかしら」
「どっちも、……間違っています」
「ええ、その通り」
幻の銀水晶は可視の奇跡をもたらした。だが、どれだけ計り知れない力をもってしても、心魂にまでは干渉出来ない。
さればこそ秩序が存在している。不実とひとところの次元にある。
たった一人のプリンセスのために、この手も汚す。
躊躇いや罪悪の自覚こそ、みちるからすれば背徳だ。
〈完〉