お姫様は海に恋い焦がれる
第4章 生誕祭!うさぎ争奪戦
観覧車のエントランスに残ったはるかと星野は、スタッフの誤解を見事に受けた。
『星野くんの親友さんって、天王はるかさんだったんですね?!』
二人は否定した。だが、うさぎとみちるを見送って舞い上がっていたスタッフは、二人の言葉に聞く耳も持たない。
『他言はしません。どうぞどうぞ、心おきなくごゆっくりー』
かくてはるかは最大の天敵と観覧車に押し込められて、今に至る。
「何でオレがお前なんかと!」
「僕もごめんだ。男とこんなものに乗る趣味はない」
観覧車は、一周するのに五分かかるという。これから三分。相手がみちるであれば、五分など時間の内にも入らないのに、相席が星野というだけで、永遠のように長く感じる。
にわかに強烈な光がはるかを包んだ。
包んだ、と言うべきか。攻撃したという方が、妥当だ。
「っ…………」
リップロッドを構えた瞬間、はるかは目を疑った。
「女なら問題ないということね」
「…………」
ますます癪に障る事態だ。
このまま一周回ってしまって、星野光は女装の嗜好があったという報道が、翌朝の三面記事を飾りでもしないだろうか。
つと、はるかの傍らのディープアクアミラーがイルミネーションの光を弾いた。みちるが物陰を飛び出した時、彼女らしからぬ置き忘れをしたものだ。
はるかはタリスマンを裏向ける。
その時、鏡にうさぎとみちるの抱き合う姿が見えた。
「…………!!」
情熱と、プロポーションだけは非の打ちどころのない天敵の目に、大粒の涙が浮かび上がる。
「おい、……」
「うわぁぁあああああああっっ…………」
それは、ファージに襲われた人間が見せる恐慌をしのぐ、取り乱し様だ。
ファイターは頭を抱え、喚き、はるかへの恨みつらみをぶつぶつ唱えている。今朝から今に至るまで、つまり衛とみちるの行動においても、彼女ははるかに責任転嫁していた。