とかして。
第1章 光が世界を染め変える
物心ついてまもない子供の目には、無機的な色に馴染んだだけの眺めでも、碧天の下にひっくり返した玩具箱に映る。
街も緑も、炫耀している。世界はさしずめ果てない可能性を湛えた宝石だ。
きらびやかな光景は、歳月に連れられて煤けてゆく。
子供は少女に、少女は女に。
かつて月の王国に紐づいていた魂は、転生後、そうした変化を目の当たりにしない。
みちるにとって、物心ついたばかりの時分、無機的な玩具箱は既に地上の変わり果てた姿でしかなかった。
シルバーミレニアムの栄えていた遥か昔とは随分違う。
ただ一人、狂おしいまでに信頼し合った親友とさえはぐれてしまった、知らない異国(ちきゅう)だ。
夢の中でみちるにささめく姫君の声が、初めてみちるに現実味を与えた。
タリスマンを、探して。
もうすぐ。もうすぐ──…世界が…………
天使はみちるに不吉を報せた。天使は天使であればこそ、生命溢れる青い地球を悲劇から回避させんと、かつての彼女の戦士に使命を課した。
天使がみちるに示すビジョンは、一瞬にして崩壊してゆく街だ。
みちるはビジョンを眺めながら、胸安らぐのを感じていた。天使の声に、深い愛惜を見出していた。
セーラーネプチューンとしての姿を取り戻し、かつての海王星の力をもってして破滅と戦う運命に、何ら疑問も不服もなかった。