とかして。
第2章 有料なら、受け取るってことだよね?
世界を朝ぼらけの空が覆った。
あたしはさやかの手錠を外して、ソウルジェムを完全無欠に浄化した。
月の光を望んだ海は、みるみる夜明けのみなもになった。
みずみずしく潤う生気。艶かしい裸体にシーツを巻いて、ぐったりと腕を投げ出したさやか自身も、清冽な生気に漲っていた。
「愛してる…………さやか」
「──……」
「あたしは、あんたみたいには戻れない。あんたは綺麗だよ。良いじゃん、憎んだって。恨んだって。あたしが保証する。さやかは、妬ましいほど綺麗だよ」
あたしはさやかのソウルジェムを懐に仕舞った。
肉体を征服する味をしめた。そうなれば、次に征服したいのは──…
「これは預かっておくよ」
「砕かれても、杏子なら恨んだりしないよ」
まどかとやらに笑っている時のように、さやかの軽口は軽かった。
疲弊した、それでも優しい目をした彼女の手に、あたしは赤いソウルジェムを収める。
「さやかは、これ、預かってて」
「え……」
「重くなったら、空にでも放っちまいな」
「──……」
ソウルジェムを手放しても、魔女が出たところで困らない。
あたしはさやかの、さやかはあたしの側を離れられなくなったのだ。そしてあたしは好きなだけ、綺麗な海を守っていられる。
あたしの髪が、重みを感じた。さやかの繊手が、赤いくせ毛に戯れていた。
「出来ないよ」
「うわっ」
ちゅ…………
腕を引き、あたしをシーツに沈めたさやかは、断りもなく唇を重ねてきた。
すぐ間近には可憐な顔。純粋で、踏んでもくすまない新雪のような。
「有り難う、杏子」
「…………」
「愛してる」
この関係が、何と名づくものかは知れない。
祈りは消えて、想いは壊れて、それでもまだ、愛と正義の夢物語を信じている。縋っている。
あたしは、彼女に縋っている。
<完>