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第32章 満月の夜

「お誕生日だから特別。真啓みたいにピアノ上手くねーけど。」

「今まで貰ったプレゼントの中で、一番嬉しいプレゼントだよ!ありがとう。」

見上げたあたしの唇に、空は優しく甘いキスをして微笑んだ。

「あの時みたいに、踊ろう。」

空はあたしの手をひっぱり、春さん達の隣で踊った。

「君は宮ノ下さんの息子さんだったのか…大きくなって驚いたよ。」

春さんが慌てておじいちゃんを止めた。

「しーっ。皆には内緒なのよ。」

「ご無沙汰しております。今は華さんとお付き合いをさせて頂いています。」

「不思議なものだねぇ。華が初めてダンスを踊った人と、再びめぐり合ってただなんて。」

おじいちゃんがあたし達をみて微笑んだ。

「ええ。本当ね。」

春さんも笑っていた。

「いつでも遊びにおいで…と言っても私は殆どこの家にいないけれどね。」

おじいちゃんは空に優しく言った。そしてそれぞれのパートナーとゆったりと踊っていた。

「あれ?空の苗字って古水流(こずる)じゃないの?」

「宮ノ下は、親父の姓で、古水流は、母の旧姓なんだ。」

「そうなんだ。お母さんと一緒に暮らしてないんだね。」

「ああ。お袋はイギリスで弁護士してる。」

…そうなんだ。

「お父さんは?お父さんとは会ってないの?」

「親父とはそりが合わなくて、家を飛び出したんだ。」

あたしはそれ以上空に聞いたら悪いような気がして、静かに頭を空の大きな胸に預けた。


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