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楔 ---KUSABI---

第1章 壱・白羽の矢

水の上を歩く、という貴重な体験の後は、
壁際の滝を暖簾のようにくぐる、という体験もした。

くぐろうとした一瞬。
後ろの方から何か聞こえた気がしたけど、
水の上を浮くという非現実の真っただ中にいる事で、
その声は些末事として脳内は勝手に処理していた。

だから振り返る事すらしなかった。

滝も普通なら当然濡れる筈なのだけど、
暖簾をくぐっただけ、の感じで濡れる事は一切なかった。

で、くぐった先も洞窟で、
色とりどりの飾り紐が、所狭しと洞窟の天井を彩っている。
洞窟の天井から垂れ下がる無数の紐が、
何処から吹いているのか解らない微風に乗って
ゆらりゆらり、と揺れている。

どうやって括り付けているのか、そこも不思議・・・と
見とれていると促される。

『選ぶといい』

「1つ?」

『そう』

ちなみに飾り紐の色が解るのは、
相当数の蝋燭が洞窟内を明るく照らしているから。

『正式に巫女になるための儀式の1つ。
ここで1つ運命の選択をする』

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