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楔 ---KUSABI---

第1章 壱・白羽の矢

狐の面を被った男は、私の手を放した。

『お前の運命を、選ぶといい』

奇妙なことを言う男。
もう既にここに来た時点で、強引に、ではあるが、
神に選ばれているというのに、また選べと促す。

・・・考えても答えは出ない。
諦めて視線を上に向ける。
ひらりひらりと漂う飾り紐は、意思があるのかないのか
手を延ばし、適当に掴もうとすると、風もないのに
ひらりと紐が動いて、私の手につかまるのを阻もうとする。

『意志をもって、選ぶといい』

何でもいい、という適当な感じは駄目らしい。

と。
目線の先に1つの飾り紐。
他の紐はひらりひらりと揺れるのに、その紐だけは
風になびくことなく、ぴたりと空気の上に縫い合わせた
様に、動く気配が全くない。
灰色がかった明るい紫色の、飾り紐。

・・・これ、でしょう。

近付き、手を伸ばし、捕まえ、引っ張る。
天井からぶら下がっていた、それ、は
簡単に私の手の中に収まった。

『紐の名は葵(あおい)。
お前は、たった今から葵の巫女となる』

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