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楔 ---KUSABI---

第1章 壱・白羽の矢

気が付けば隣に、狐の面の男。

『首にかけよ』

紐を首にかける理由は解らなかったが、言うとおりにかけた。
かけた紐を男が軽く止め結び。
首を圧迫しない程度だから心配はない。

再度手を引かれ、明かりのない洞窟の中をさまようように歩き続けること数分・・・に感じた。

気が付けば、最初の祠の前。
相変わらず、滝の音が響き渡る。

『行こう』

また同じように滝の方に向かうのかと思いきや、
真ん中の祠に向かって歩く・・・のはいいのだけど、
今度は、何故か浮かばず、水の中に入っていく。

「・・・濡れ」
『今から、人としての穢れを落とす』

手を引かれ、ずぶずぶと進む水の中。
水は腰より少し上まで達し、濡れた着物が重みを
自覚させたところで、歩みが止まった。

『鎮めよ、清めよ、沈めよ・・・』

向かい合い、首にかけた飾り紐のそれぞれを男が手に持つ。
とその時、洞窟の影になった部分から、走って飛び出した
人物。

「花音を返せ!!!」

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