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楔 ---KUSABI---

第1章 壱・白羽の矢

「花音(カノン)」

着物に着替え、自分の部屋で何かする訳でもなく、
ただ佇んでいた時、背後から名を呼ばれた。

「・・・久しぶり」

見なくても解る声は、幼馴染。
この数ヶ月は会ったか会ってないかも
記憶が定かではないので、久しぶり。
でも結構な頻度で家に来ていた・・・と母が言っていた。

「花音、逃げよう」

「何故?」

何故、逃げなければならないの?

「神になんか、カノンをやれるかよ!」

「何故?」

何故、神に対して文句を言っているの?

「花音!!目を覚ませ!!」

背後から、揺さぶられる体。

「私は正気よ」

「どこが! その生気のない顔のどこが正気なんだ!?」

生気がない?

「まだ死なないわよ」

「死なせない。行かせないッ」

回り込み、正面から抱き締められた。
その表情は、そしてギュッと抱き締められた力の強さは、
ただただ必死。

「何故?」

解り合っていた筈の、幼馴染が、理解出来ない。

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