キラキラ
第5章 hungry
「は?……綺麗? 男子校だぜ、ここ」
「それが、マジなんだって! 俺もこないだ初めて見かけたけど、中性的って感じでさー、なんか一回みたら忘れらんないっていうか」
「ふうん……」
雅紀は、興奮ぎみだったけど、俺にしてみれば、さして興味はない話だった。
……だって。男じゃん。
「うーし! 全員、筆記用具以外、机の上のもん、しまえー」
唐突に、がらりと扉をあけて入ってきた松岡の声が、俺らの思考をかきけした。
それから行われた抜き打ちの小テストで、頭をさんざん使い、雅紀の話は俺のなかですっかり消え失せていた。
***** ***** *****
その話を突然思い出したのは、授業終了後、雅紀とクラブハウスに向かってるときだった。
二年の校舎から、クラブハウスに向かうには、三年の校舎を横切らねばならない。
夏で引退してしまった先輩に偶然会える時は、嬉しいが、やはり、三年生は迫力があり、あまり踏み入れたくない場ではあるため、自然と足早になる。
「お、櫻葉」
「あ、井ノ原先輩!」
渡り廊下で出会ったのは、今夏までバスケ部のキャプテンだった井ノ原先輩だった。
いつも、穏やかに、部員を見守り、時に厳しく激を飛ばし、笑うと目がなくなる優しい人だった。
一生懸命取り組むお前らが大好きだって言って、俺たちを、特に可愛がってくれていた。
櫻井と相葉って言うのが面倒だから、と櫻葉と省略されてよばれることもしばしばで。
「どうだ?頑張ってるか?」
「はい!先輩もお元気……そうで」
語尾が尻すぼみになったのは、後ろから歩いてきて井ノ原先輩の傍らで立ち止まった人物に、目を奪われたから。
「もう……さきさき行くなよ。迷うじゃん」
「ごめんごめん。こいつら見かけたから、ちょっとつかまえたくて」
柔らかい声。
井ノ原先輩が話をしてる人物は、襟についてるバッジの色が青なのをみると三年生。
「この人。朝、話した人」
雅紀がひそひそと口を寄せてきた。
(へえ………)
確かにびっくりするほど、綺麗な人だった。
少し色素の薄い瞳は、優しい色をしている。
すっとした鼻梁や薄い唇は、整っていて、男性と呼ぶより、本当に中性的なイメージで。
茶色い、柔らかな髪の毛は、フワフワしていて、肌には透明感があった。
男子校にこんな人、……危険だ!