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キラキラ

第32章 バースト 8


振り返ると、うるさい女子高生の軍団のなかに、少し毛色の違う子がいる。
その子がまっすぐに俺を見てる。


……?


短く切り揃えた髪が、活発で清潔そうな印象をあたえる。
小柄で、細身。
柔らかなたれ目の目元に特徴があるこの人……あれ。
どこかで……。


「知念です。バスケ部の元マネージャーの。松本くんって、確か相葉と仲良かったよね?」


「……はい」


思い出した。
雅紀は確かユーリ先輩っつってた。
元ってのは、もう三年生だから引退したからだろう。


「松本くんって……櫻井先生の知りあい?」

「……はい」

「親しいの?」

「まあ……」


…………なんなんだ。

なんとなく、嫌な予感がする。
知念先輩は、傍らのもう一人の女子高生に何やら耳打ちした。
耳打ちされた子は、顔を輝かせてパッと俺を見た。

知念先輩は、その子の背中をポンポンとたたいてまた俺に笑いかけた。


「あのさ、この子、すっごい櫻井先生のファンなの。一回でいいから、先生とお茶がしたいんだけど、なんとか繋ぎ作ってくれない?」

「……え?」


なにいってんのこの人。

俺は、無表情にならないように気をつけて、知念先輩を見下ろす。

一応、雅紀の先輩だからあまりつっけんどんにもできないから。

でも、あまりといえばあまりな依頼に、胸の奥がズキリとする。

女の子からしたら普通のことなのだろう。
憧れの人に少しでも近づきたい、ただそれだけの心理。
そして、それが叶えられそうなチャンスが目の前にある。
つまり俺の存在だ。

翔に、いきなりお茶をしましょう、なんて言えないが、俺が間に入れば叶うかもしれない。

そりゃ分かる。
分かるけど。


俺は、キラキラした目で俺を見つめる知らない女の子と、曇りのない純粋な目をしてる知念先輩ら二人の視線を浴びて、いたたまれなくなってきた。

この子らは、俺が翔の恋人だなんて夢にも思わないだろう。

でないと、そんな無神経な依頼なんかできるはずない。


俺は、知念先輩に、頑張って少しだけ笑いかけた。


「……知念先輩って、伊野尾と相葉のときにもそんなことしてませんでした?」

「え?……ああ。まあね。でもあれは結果分かってたうえで、相葉にお願いしたからさ」



知念先輩は、無邪気に言って、ペロッと舌を出した。

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