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キラキラ

第32章 バースト 8


悪いけど、雅紀のときみたいに、これも結果決まってんだけど。


翔は俺のだ。
誰も近づくな。
寄るな、触るな。


声をあげて言いたい。


だけど、こんな思い…出せるはずない。
愛し合ってるのは真実だけど、なんでもかんでも公にするのは得策ではないのが俺らの関係だもの。


張り裂けそうな思いを、無理矢理心に封じ、俺はコクンと息をのんだ。


「櫻井先生の都合つく日聞いてくれる?私たちそれにあわせるから」


無理だっつの。


「……翔は忙しいから……どうかな」


曖昧に笑って誤魔化し、遠回しに断ってるのに、知念先輩は引き下がらなかった。


「塾が始まる前とかの、30分くらいならなんとかなるでしょう?ねぇ、お願い」


手をあわせて俺に頭を下げてくる。


……やめてくれよ。
俺にそんなこと、頼まないで。


「あの……櫻井先生って恋人いるの?」


知念先輩の隣のキラキラした目の女の子が口を挟んだ。


恋人。


ドキン、と心臓が鳴った。
瞬間、キンっ……と耳鳴りがした。


ハッと我にかえる。

油断した。
チカラが、意識のストッパーを破り瞬時に流れ出した。


俺の能力は瞬間移動。
だけど、こんなところで、跳ぶわけにはいかない……っ。


どうしよう……!



「……松本くん……?」


怪訝な顔をした二人が、霞んでゆく視界にうつる。
俺が、焦って後ずさりしたのと、後ろから、力強く、ぐいっと腕を掴まれたのが同時だった。

振り返ると、ぼやけた視界に、翔の厳しい表情がうつった。


ばか、と小さく叱責されて、そのまま腕を引っ張られ、立ち位置を入れ換えられた。
俺の姿を女子高生から隠した翔は、


「ごめん、映画の時間始まるから!おまえら、早く帰って勉強しろよ!」


大きな声で言いおいて、俺の腕を引っ張り、駆け出した。


「走れ!」


と、小さい声で鋭く怒鳴りつけられる。


「あ、松本くーん!!」


遠ざかる知念先輩の叫ぶ声を聞きながら、俺はもつれる足を無理矢理前に出して走り出した。


視界が……かすむ。
足が地につかない。
息が……できなっ……!


「なんとか、我慢しろ!」


怒鳴った翔は俺を引っ張り、駅ビルのトイレに引きずり込んだ。

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