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キラキラ

第32章 バースト 8

ドタバタ走り込んできた俺らに、用をたしてた男性がぎょっとして振り返ったようだった。

ともすれば、くずれ落ちそうな俺を、翔の念動力が支えてくれてるのが分かる。
そのまま、翔は無言で俺を個室に押し込み、自分も入って、バンッと扉を閉めた。

はぁ……はぁ……と、肩で息をしながらうずくまりそうになる俺を、翔が引っ張りあげて抱き締めた。


「あほ。なにやってんだ……」

「ごめ……」


既に視界は真っ白。
ここまできたら、翔のチカラをもらっても、制御するのは不可能だから、もう跳ぶしかなくて。
あともって数秒。

はぁ……と息を大きく吐いたら、翔が小さく囁いた。


「行き先は指定できそうか」

「ぁ…多分……」

「じゃ、海でも行こうぜ。千葉な」

「わかった……」


ギュッと目を閉じ、感覚を遠くにとばして。
少し流れ込んでくる翔のチカラももらって。
俺は、翔にしがみつきながら、自分の能力を解放した。








夏の海辺は、この時間になってもチラホラと人がいる。

手を繋いで砂浜を散歩する年配の夫婦。
少し離れた波打ち際で、楽しそうに遊ぶカップル。

太陽が沈みかける、この深いオレンジに染まった景色に、みんな自ら溶け込んでいってるみたいだ。

俺は砂浜に座りこみ、ぼんやりとその光景を眺めていた。

頬を撫でてゆく潮風と、打ち寄せる波の音に身を委ねてると、さっきの、出来事が夢のように感じる。


知念先輩……あのまま引き下がってくんねーかな……。


無邪気に微笑む顔が辛い。

こういうとき、性別の壁を感じる。
俺が翔の恋人だって、言いたいけど……。

俺はかまわないけど、翔が好奇の目に晒されるのは嫌だ。

いっそ。架空の恋人でもでっちあげてやろうか……。

ふー……と細く息を吐いてうつむいた。


「ほら」


突然、ピタリと首筋に冷たいものが押し当てられた。
ふっと顔をあげたら、翔が微笑んでスポーツ飲料を差し出してくれていた。


「大丈夫か」

「あ……うん。ありがと」

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