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キラキラ

第32章 バースト 8


俺は意識して深呼吸を繰り返した。

いけない。
我ながら完全に頭に血がのぼってる。

潤のことになると、どうしてこうもスマートになれないんだか。

落ち着いて話を聞いてやらなくちゃ。
潤が、だって、と言った。
では、何かしらの理由があるのだろう。


俺は、気を取り直して、優しく


「……潤」


と、語りかけた。
涙声だった潤は、押し黙ったままだ。


「どうして、知念に、俺に恋人がいるって言わなかったんだ?」

『………』

「その方がお前も断りやすかったんじゃないのか」


潤の答えを聞こうと、耳をすます。
沈黙してはいるものの、通話状態にあるスマホからは、小さくズズっと鼻をすする音が聞こえる。


泣いてる……


泣かせるつもりなんてこれっぽっちもなかった。
あまりにも、がっかりしてしまったせいか歯止めがきかなかった結果だ。
自分の荒い口調を後悔した。


「……ごめん、潤。言い過ぎた」

『…………ううん』


潤が、また黙るから、俺もそのまま黙った。
潤が喋りだすまで待とうと思った。

潤の鼻をすする音を、辛抱強く聞き続けてたら、


「……知念先輩は……もし翔に恋人がいてもそれでもいいって言うんだ」


ぽつりと潤が呟いた。


「……うん」

「思い出作りなんだって……」

「……俺は、それに付き合わされるってことか」


思わず皮肉をこめて言ってしまい、また潤が黙る。


しまった。
余計な一言だった。
俺は、はぁ……とため息をついた。


「悪い……続けて」


俺が促すと、潤がまた小さく言った。


『恋人がいてもいいって。思い出作りだとはっきりいわれたら、恋人がいるからダメだなんて…言ってもムダじゃん…』

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