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キラキラ

第32章 バースト 8


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その日まで一週間弱あったが、俺たちは面白いくらいにすれ違った。

俺の家庭教師と塾の講師のバイトが、夏休み終盤になり追い込むように増えたこと。

俺の家で開催されてる潤たちの勉強会も、あいつらの課題が終わったために、ひとまず終了した、というのが原因だった。

加えて、夏風邪をひいた潤が寝込む、おまけまでついた。

電話しても、あいつが寝ていて出ない、ということも続き、ここ二日間はメッセージのやりとりのみで声すら聞けてない。




俺は、アプリを開き、潤とのトークをタップする。



[大丈夫か。熱は下がったか]

[ありがとう。まだ少しあるけど大丈夫]

[無理すんなよ]

[翔もね]



……くそう……会いたいなぁ……


電車のつり革につかまりながら、数分前のやりとりを見つめる。

潤が自宅暮らしじゃなければ、俺の部屋に寝かせておきたいくらいだ。

会いたい、と入力しかけて、迷って消した。
……困らせたくなかった。

俺は、ため息をついてスマホをポケットにしまい、すっかり通いなれた駅のホームに降り立った。



改札をぬけて、駅前に立ち並ぶビルを歩く。



大手の塾ほどではないが、地元ではそこそこ知名度のある塾。
生徒数もわりと多いここに、講師としてアルバイトを始めた友人から、頼むから助けて、とヘルプが入ったのが夏休み前だった。

夏期講習も始まり、生徒数もいつもより増加するタイミングで、講師の一人が体調を崩して入院するという事態になって大ピンチだというのだ。


(頼む!代わりをすぐ募集するから、その間だけ助けてくれ!)


家庭教師をしてる俺が、人に教えるという作業が嫌いではないことを知っているからこその依頼。

代わりがみつかるまでの間だけという条件で、仕方なく引き受けたが。


……なんだか、このままずるずる引き留められそうな気がしてならない。


塾長がニコニコして、楽しいだろうやりがいがあるだろう、と盛んに絡んでくるのも気持ち悪い。

だいたい募集かけてるのかも怪しいしな……。


俺は腕時計を確認して、塾近くにある有名なコーヒーショップに入った。

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