
キラキラ
第32章 バースト 8
「あれだろ……翔の悪い癖がでたんだろ」
智兄が、ソファのヘッドに頬杖をつき、のんびりとそう言った。
「女の子とっかえひっかえしてたころは、記念日が面倒だから、と誕生日の話題を避けてた。その癖が抜けないんだろ」
……反論もできない。
かずが、非難めいた目で、そうなの?と言うけど、うん、とも言いたくない俺は、既読もつかないスマホをじっと見つめながら、生返事をした。
「返事なんて待たずに、行ってこいよ」
智兄が、ベランダを指差して促す。
……飛んで行けってことか。
「潤のことだ。どうせ、おまえが忙しいから言い出せなかったんだろ」
……そうかもしれない。
智兄の言うことはいちいち的を得ていて、何も言えない。
小瀧の件を俺に依頼するときなんて、どんな想いで言っていたんだか……。
想像するだけで罪悪感に溺れそうだ。
俺の今日一日を、誰よりも欲しかったのは……きっとあいつだ。
それなのに、じっと黙って。
相葉くんの先輩とはいえ、見ず知らずの女子高生のために。
そして、忙しい俺のために、自分は我慢するなんて。
俺と電話しながら泣いてた潤。
きっといろいろな想いがあったのだろう。
己の間抜けさに、反吐が出る。
俺は、シチューの火を消し、足早にベランダに向かった。
「……行ってくる」
都会の熱気を伴う風が入ってくる窓から、外にでた。
まだまだ蒸し暑い。
焦りだからか、首にじっとりと嫌な汗をかいてる。
「見られんなよ」
智兄の言葉に頷き、俺はベランダの手すりに素早く飛び乗り。
そのまま空中へふわりと身を踊らせた。
同時にパチリと指をならし、念動力のチカラで自分の体を上空高く持ち上げる。
肉眼では見えづらい位置まで高く高くのぼり。
夜でも、街の光の輝きに薄明るい夜空を、俺は潤の家に向かって飛んだ。
