
キラキラ
第32章 バースト 8
「元気になったらお祝いしような」
「うん……ありがと」
翔が、俺の髪を撫でる。
嬉しい……
俺は、微笑んで頷いた。
そのとき。
翔が、ふっと顔をあげて、動きをとめた。
どうしたの、と、口を開けかけたら、
「……誰か階段をあがってくる」
声をひそめる翔。
俺は、…母さんだ、と、呟いた。
空調をきかせてる俺の部屋は、窓も扉もしまってるから、囁くような話し声が下に聞こえたとは考えにくい。
よって、おそらく、高熱の俺の様子をみにこようとしてるだけだと考えられる。
この時間、この部屋に、翔がいる事実の説明は……残念ながらできそうもない。
……あー……ここまでか。
思った瞬間。
「……んぅっ?!」
翔が俺の頬を両手ではさみ、深く口づけてきた。
完全に不意をつかれ、唇を閉じる間もなかった。
熱い舌が、一瞬だけ俺の口内を生き物のように蹂躙する。
「ふっ……」
ドキンと胸が鳴り。
キン……と耳の奥が鳴り。
頭が真っ白になった。
だが、同時に一気に流れ込んできた翔のチカラが俺の暴走の種火を即座に押さえ込み消し去った。
「っ……はあっ」
少し暴力的ですらあるそれら一連の流れに、思わず声が出る。
「じゃな」
ごめん、というようにペチペチと頬を叩かれ、反射的にギュッと瞑っていた目を開けると。
翔は笑ってウインクをして、ベランダから暗闇に飛び込んだとこだった。
同時にコンコンという音と共に部屋の扉が開く。
薄暗い部屋に足音を忍ばせて入ってきた母さんが、あら……と呟いた。
「クーラーしてるのになんで窓が開いてるの……?」
俺は、ドキドキしながら慌てて寝たふりをする。
頬が唇が熱い……。
寒かったのかしら……、と独り言をいいながら、母さんは俺の額に手を当てた。
「やだ。また熱あがってる」
心配そうな声音に、俺は心で、違うよ、母さん……と、謝った。
ぜーんぶ、翔のせいだからね!
