キラキラ
第5章 hungry
「ここは、北校舎。事務室があるのは、真逆の南校舎です」
「……うん。クラスのやつにそう聞いて出てきた」
どこで、間違えたんだろう、と真剣に悩む大野さんは面白い。
もしかして天然なんだろうか。
「よかったら、案内しますよ」
自然に申し出ていた。
大野さんは、嬉しそうに顔をほころばせて、ありがと、と言った。
階段を一階までおりて、北校舎をでて、中庭に出る。
「校舎を通っていくより、中庭突っ切った方が早いんです」
「ふうん……」
中庭は、ちょっとした広場になってて、ベンチや机がある。
天気がいいからか、今日は、何人かのグループがジュースを飲みながら談笑していた、
「櫻井は、バスケは、中学から?」
「そうです」
「相葉も?」
「あいつは、小学生のころからやってんのかな。あいつは、別格ですよ。中学のバスケ界では有名人でしたもん」
「へえ……」
たわいない話をしながら、ゆっくり並んで歩く。
大野さんは、楽しそうに、中庭に咲いてる花やら、木々を見ながら、相槌をうつ。
不思議な空気をもつ人だった。
柔かな笑顔で、ゆっくりした口調で。
一緒にいるだけで、癒される人って、こういう人をいうんじゃないかな。
「でもさ、俺は、櫻井のプレーが好きだよ」
「え?」
「なんかさ、一番楽しそうに、やってた」
そういって、にこりと笑う大野さん。
二宮の言葉が、頭をかすめた。
『あの人、ずーっと櫻井先輩を見てましたよ』
本当だったんだな……
なんだか、ちょっと嬉しくて照れ臭く思う自分がいる。
そんなこと言われたのは初めてだ。
大野さんの言葉に胸がドキドキする気がするのは、なぜだろ。
「……ありがとうございます」
笑顔で御礼をいうと、大野さんは、ふふっと笑った。
南校舎の入り口につき、中央階段をのぼる。
「二階が、事務室ですよ」
「……うーん……自分一人で来れっかな……」
呟く大野さんに、思わず笑ってしまう。
「次は井ノ原先輩に、ついてきてもらってください」
「そうする……あ、櫻井、もういいよ。ありがとう」
「……三年の教室まで帰れますか?」
「…………」
「早く用事すませてきてくださいよ」
笑いをこらえて、促すと、大野さんは決まり悪げに階段をかけあがっていった。