キラキラ
第5章 hungry
「………大野さん、すごかったです。全然イメージと違ってた。」
「ははっ。俺、どんなイメージだよ?」
大野さんは、肩をゆらして笑う。
「でもさ。俺、バスケより好きなものがあることに気づいちゃってさ、……だから、櫻井みたいな純粋なやつに会うと、なんだかまぶしいや」
大野さんは、伏し目がちに言って、チラリと俺を見て微笑んだ。
「バスケより、好きなもの……?」
「うん」
すると、大野さんは、こんな時期に転校してきた真相を話してくれた。
スポーツ推薦で大学はほぼ決まってたのに、蹴ってきたこと。
そのせいで、父親と大喧嘩になったこと。
売り言葉に買い言葉で、家を飛び出して、都心に住んでる、おばあちゃんちに転がりこんだこと。
ポツポツと、話してくれる内容は、なんだか本当に、俺がもってた大野さんのイメージとは、かけはなれてた。
なんて強くて、なんて行動派な人なんだろう。
フワフワした外見にはそぐわない話に、俺は、聞き入ってた。
「自分でもバカだとは思うけど……でも、ばあちゃんが、一回だけ協力してあげるって言ってくれて。親を説得してくれて、俺がもどりづらくなった前の学校からこっちに転校する手続きとか全部してくれたんだ……」
ゆっくり歩く俺たちは、気がつけば、雅紀たちとは大分距離があいてる。
でも、もっともっと少しでも長く、大野さんの話を聞きたくて、俺は殊更にゆっくり歩く。
「……大野さんの好きなことって?」
「………絵がね。好きなんだ。美大に行って勉強したいんだ」
伏し目がちに、そう言う大野さん。
「………じゃあ。なにがなんでも合格しないとですね」
静かに、思ったことを伝えたら、
「へへっ。そうなんだよね」
大野さんは軽く肩をすくめて、イタズラっぽい表情になった。
応援したい、と思った。
大野さんが、全てを蹴って、進みたいと思ってる道が、開けばいい、とすごく思った。
こんなプライベートな話をしてくれるなんて、思ってもいなかった。
大野さんをまたひとつ、知ることができて嬉しい……。
「俺………応援してます」
「うん。ありがと」
そういって笑う大野さんが、やっぱり綺麗で、俺は赤くなる顔を誤魔化すように、手にしてた、ペットボトルをあおった。